書籍紹介

講演録

『旅』の意味と可能性を探る (CD書籍)

廻 洋子(淑徳大学教授)・家田 仁(政策研究大学院大学教授)編著
「旅の意味と可能性を探る研究会」著

ISBN 978-4-9908895-2-4
東京大学 交通・都市・国土学研究室 2017年1月刊行
*CD制作実費(\1000/枚)と送料のご負担により頒布しています。ご希望の方は下記までお問い合わせください:
 政策研究大学院大学 家田 仁教授(秘書) m-kukita@grips.ac.jp  03-6439-6213

 

 国際クルーズ船旅客を含めてインバウンド観光客が大幅に増加し、また地方創生政策の重要な柱の一つとして「観光」の重要性が高まっている中、観光に対する「量的な関心」から一歩引いて、「旅」というもののもつ「本質」へのアプローチを試みたのが本書である。
 従来の観光研究の主要なタイプというと次のような3つが挙げられよう。第1のタイプは種々の統計などをもとにして観光需要の動向などを分析するもの、第2は観光サービスの供給サイドである観光業・旅行業などの特性を分析するもの、第3は観光対象(観光地)のコンテンツの充実や空間質の改善などを図るものである。こうした研究スタンスは観光実務に一定の貢献をなしてきたが、観光というものが内包する「個別性・固有性」「流行りすたり」「刹那性」…といった本質的な性質を考えると、本来普遍性の追求を身上とする学問的な見地からするとやはり自ずから限界を抱えていると言わざるをえない。一方、インターネットなど情報通信サービスが充実し、またヴァーチャル世界のエンターテイメントが台頭して、若年層の「旅」離れの傾向も見られる中、今後の観光分野の本格的な振興のためには、「旅」を人類の存在に本源的に関与する人間の所業として捉え、その本質を探っていくという基礎的なアプローチもやはり重要であろう。
 そういった意味で、本書が問いかえる、「人間にとって旅の本質とは何か?」すなわち、「なぜ人は旅をするのか?」そして「旅は人に何をもたらすのか?」という疑問は、第4の研究タイプの究極的なターゲット:難問と捉えることが出来よう。
 本書は、第1章「旅の本質を探る」、第2章「旅を読み解く」第3章「旅する人たち」、第4章「旅のコンテンツとインフラを作る」の4章から構成される。その中では、例えば、「旅の人づくり効果」(家田仁)、「バカンスの本質」(廻洋子)、「旅館の本質」(大久保あかね)、「グランドツアー」(朝倉はるみ)をはじめ、様々なトピックについて20名の識者が論じている。さらに、「39人の旅人たち」と題する古今の名著・名作から代表的な旅人を紹介する特別コラムが加えられている。これは、旅人というものをA挑戦する旅人、Bのんびりの旅人、C信仰の旅人、D放浪と模索の旅人、E未知を求める旅人、F匠の旅人、G創造の旅人の7タイプに大別し、植村直己やモーツァルト、宮本常一、そして車寅次郎までさまざまな旅人が紹介される楽しい読み物となっている。
 前述の本質的難問に本書が答えきっているわけではもちろんないが、その追求に向けた多面的糸口を提示しているという点で興味深い書籍ということができよう。 (紹介者:家田 仁)

 

 

 

旅の意味と可能性を探る研究会 © 2011       Free Hit Counter Free Hit Counter