最近の研究(ワーキングペーパー)

こちらでは最近行った,あるいは現在進行中の研究内容をワーキングペーパーとして公開しています.なお,これらの論文は著者の許可がない場合は,転載禁止です.ワーキングペーパーに対するコメントを歓迎致します.ご意見・ご感想等は加藤(kato[at]civil.t.u-tokyo.ac.jp)までご連絡下さい.
なお,英文のワーキングペーパーについては,英語版をご覧下さい.

更新年月日 2013年4月1日


加藤浩徳:人々の交通行動に根本的な影響を与える出来事とは何か?, March 2013 [PDF]
Abstract
中長期の交通政策の検討では,将来の状況に関して,いわゆる「Business-as-usual(現状推移型)」のシナリオが想定されることが多い.しかし,過去を振り返れば,交通はさまざまな事件や事象によって,大きな影響をうけてきた.たとえば,近年で言えば,テロやインターネットの普及は,人々の交通行動に変化をもたらした大事件だったといえる.人々の行動パターンを根本的に変化させるこの手の事件や事象をきちんと頭に入れておくことは,今後さらに不確実な社会・経済の到来が予想されている現在においても,交通政策を検討する上で有益な示唆を見いだせるかもしれない.では,そもそも人々の交通行動を大きく変化させるものには,これまでどのようなものがあって,また,それらはどのように分類できるものなのだろうか.今回紹介する論文は,この壮大な問いに対して,過去40 年間を対象とした研究レビューを通じて分析したものである.

Keywords: 根源的変化,交通行動,シナリオアプローチ


加藤浩徳:大都市交通センサスの調査手法上の課題と改善の方向性:特に鉄道輸送データの観点から, May 2012 [PDF]
Abstract
2010年に最新の大都市交通センサスが実施され,その結果が2012年3月に発表された.大都市交通センサスは,我が国の三大都市圏における公共交通の流動特性を把握する上で,貴重な情報を提供する調査である.ただし,他の交通調査であるパーソントリップデータ等と比べると,運輸事業者からのデータ収集協力を必要とし,また複数のデータを組み合わせることにより,複雑な集計処理がなされているために,この調査に固有の課題を多数抱えている.一方で,近年,IT技術の進展等を受けて,調査方法の改善に関してさまざまな可能性が浮上しつつある.そこで,以下では,特に鉄道旅客輸送に焦点を当てつつ,まず,大都市交通センサスの概略および鉄道輸送人員の集計方法と,その集計作業によって生じるデータの精度に関わる問題を整理した上で,調査に関わる課題の解決の方向性について論ずる.

Keywords: 大都市交通センサス,大都市圏,公共交通,データ精度,調査手法


加藤浩徳:貨物輸送の時間価値の計測, November 2011 [PDF]
Abstract
交通ネットワークの需要のうち,かなりの割合は貨物輸送によって占められている.これは,交通インフラ投資やネットワークサービス向上施策の効果の相当部分は,貨物輸送の改善を通じて生じる可能性があることを意味している.特に,貨物輸送の時間短縮は,企業の生産性を向上させることが期待されることから,重要な便益要素と言える.ところが,貨物輸送の時間価値については,その計測手法が確立されているとは言えない.今回紹介する論文は,需要モデルアプローチを用いた貨物輸送の時間価値推定に関する,最新のレビュー研究の成果である.一般的に,貨物輸送の時間価値を計測する手法は,要素費用アプローチと需要モデルアプローチとに分類され,需要モデルアプローチは,集計モデルアプローチと非集計モデルアプローチとに分類される.非集計モデルアプローチは,さらに,在庫モデルと行動モデルとに分類される.理論的には,在庫モデルが望ましいと考えられるものの,そこで用いられるモデルには様々な課題が残されている.今後,信頼性の高い時間価値の設定のためには,貨物輸送を対象としたさらなるモデル分析と,実証研究の蓄積が必要である.

Keywords: 時間価値,貨物輸送,需要モデルアプローチ


加藤浩徳,デシルバ・ナビンダ:スリランカ山間部における医療施設へのアクセシビリティ, November 2011 [PDF]
Abstract
本稿は,スリランカの山間部を対象に,地元住民の医療施設へのアクセスに関する実態調査の結果を報告するものである.スリランカのHambantota地域の山間部の住民を対象に,対面式の独自インタビュー調査によって,最近1年間に患った病気の実態,アクセスした医療施設の選択,通院の頻度や利用交通手段の選択などのデータを収集した.その結果,多くの住民が,近隣に医療施設が存在するにもかかわらず,遠距離の医療施設にアクセスしていることが明らかとなった.そして,この原因が,不適切な医療施設の配置ならびに,公共交通サービスと医療サービスとの連携不足にあることを考察した.低所得者層にとっては,医療施設へのアクセシビリティが低さは,深刻な健康・生命上の問題となりうることから,適切な医療施設計画および交通計画の策定と実施が必要だと考えられる.

Keywords: 医療アクセス,山間地域,スリランカ,低所得者


阿部佐智,柴田偉斗子,南出将志,横内陳正,加藤浩徳:東日本大震災に関する海外四カ国の新聞報道の特性:発生後1ヶ月間の記事を対象とした比較分析, September 2011 [PDF]
Abstract
本論文は,東日本大震災発生後1ヶ月間における,米国,中国,英国,仏国の震災に関する新聞報道の動向を調査した結果を報告するものである.各国につき一紙ずつ代表的な新聞を選定して,震災に関連する記事を網羅的に収集し,それにもとづき,各国の報道の特徴を整理・比較した.その結果,いずれも,原子力発電に肯定的な国であるにもかかわらず,福島原子力発電所事故に関する報道内容には,国間でかなりの違いがあることが判明した.また,記事の量と内容とを比較した結果,日本とその国の政治的・経済的関係,日本との地理的位置関係,および各国のエネルギー政策が,各国の報道内容に影響を与えることが明らかとなった.

Keywords: 東日本大震災,新聞報道,国際比較,発災後1ヶ月


加藤浩徳,志摩憲寿,中川善典,中西航:地域交通システムの成立と発展:高知県を事例に, September 2011 [PDF]
Abstract
本論文は,高知県を対象として,交通システム成立の経緯を整理するとともに,その経緯と社会経済的要因や政治的要因との関係を分析するものである.同県の広域交通ネットワークの発展経緯を,古代〜中世,近世,明治〜戦前,戦後の4つの時代区分にしたがって整理した.その結果,高知県は,険しい四国山地と海に囲まれた地域であったため,古代から現在に至るまで,海路による広域交通ネットワークに頼らざるを得なかったこと,県領域内の閉鎖的な交通政策が広域旅客交通の発展を妨げたこと,高知県の陸路ネットワークの整備は,主に政治的要因によって実施されてきたこと,高知県の海上交通ネットワークは,一貫して関西地方との経済的結びつきのもとに発達してきたこと,四国遍路が高知県内の技術に与えた影響が大きいことなどを明らかにした.

Keywords: 高知県,広域交通システム,歴史,ネットワーク,社会経済的要因,政治的要因