1998年度 (1998年4月〜1999年3月) 修了・卒業ならびに学位授与
 

丹羽 俊彦

東京の鉄道網の骨格形成過程の研究一鉄道技術の伝来から東京市街縦工線完成に至る間にその発展に貢献した内外鉄道土木技術者達一

鉄道土木技術が本邦に移転されてから、 1872 (明治5)年に新橋〜横浜間が開業し、約50年後に東京の鉄道網の骨格が形成されるまでの技術移転の過程を、鉄道土木技術者の視点から整理し、以下の知見を得た。第1に、明治政府が主体性をもって鉄道技術を導入し、民間資金の活用を図りつつ東京の鉄道網の骨格を形成したことを検証した。第2に、その形成過程における内外鉄道土木技術者の貢献に注目し、移転初期におけるイギリス人技術者の貢献を検証するとともに、比較的早い時期に日本側に技術移転がなされたことを明らかにした。第3に、この技術移転過程の検証から、日本が海外技術協力を行う際には、相手国が当該技術の必要性を認識することと、長期にわたってまとまった人数の優れた技術者を派遣すること、の2点を示唆した。

王 印海

事故発生メカニズムを考慮した四肢信号交差点における車両対車両事故リスクの分析モデル

自動車交通事故の発生メカニズムは、発生個所や事故類型によって大きく異なるため、細分化して分析を行うことが重要である。本研究は、全事故の約6割を占める交差点に着目し、追突事故と右折直進事故について各交差点レッグ別の事故率を算出するモデルを構築した。本モデルの特徴として、@事故発生のきっかけとなる障害の発生確率と、運転者が回避不可能となる確率の積によって、事故発生確率を表現したこと、A事故件数の期待値が負の2項分布に従うとし、最尤法を用いてパラメータを推定したこと、があげられる。その結果、交差点事故件数を各種の交差点要因によって単純に重回帰するモデルに比べ、高い現況再現性が得られた。また、本モデルは信号制御形態など有意な要因を多く含むため、事故対策の評価にも有効となる。

Crispin DIAZ

道路公共交通市場のマクロモデル化とその政策評価への応用

本研究では、バンコク、ジャカルタ、マニラ、ソウル、東京におけるバス事業者の輸送データを収集し、データベースを構築したのち、交通政策評価を目的とした「地域バス輸送市場マクロモデル」を構築した。このうち、需要サブモデルでは、自動車免許保有の有無による交通手段選択行動の違いや、バスと他モードの競合および協調現象を、供給費用サブモデルにおいては、事業規模、事業形態、車両サイズや表定速度の効果を取り込むことに成功した。また、本モデルを日本における実際のバス輸送市場に適用し、経営戦略アセスメントおよび交通政策の検討を行った結果、今後の地域交通政策は、人口密度等の地域特性や事業者の特性に応じたより柔軟な対応が必要であること、などが明らかになった。

岡村 敏之

大都市民営鉄道事業者の設備投資行動分析

本研究では、地域独占性が高く需要弾力性が低い「大都市圏の鉄道事業」を対象として、事業者の設備投資水準決定行動を表現する 「社会的圧力最小化投資行動モデル」 を提案し、実際に東京圏・大阪圏の大手民鉄事業者に適用して、事業者の設備投資行動を理論的・実証的に明らかにした。その結果、@我が国の大手民鉄事業者が、1分の短縮に相当するサービスの改善に対して行う設備投資の限界費用は、過去 30年間にわたって利用者一人キロあたり5.0円(1994年価格)前後の水準であったこと、A特定都市鉄道整備積立金制度などの各種整備制度が事業者の設備投資のインセンティブとなってきたこと、B将来の事業制度として、建設費補助等の施策とともに、利用者負担を前提とした各種の施策(情報公開、ピーク時運賃賦課制度など)の導入が効果的であること、が示された。

 

吉良 智子

インフラ整備における合意形成とリーダーシップの役割

本研究は、インフラ整備事業の合意形成におけるリーダーシップの効果を明らかにすることを目的とした。6つのインフラ整備事例について、文献調査及び関係者に対するインタビュー調査を行った。その結果、合意形成過程を3つの局面に分類し、各局面で有効に働くリーダーシップの機能を「もりあげ機能」、「まとめ機能」、「むすび機能」に分類した。また、「リーダーシップの3機能」、「リーダーの特性」、「法制度・システム」の相互関係を考察し、複数のタイプのリーダーが分担して3機能を発揮することを示した。また、法制度・システムが、@協議会等の制度による「むすび機能」の代替、A説明会等の情報公開によるリーダーの「まとめ機能」と「もりあげ機能」の発揮の推進、B事業への助成制度によるリーダーの発現の促進、などリーダーシップ機能をサポートする可能性を示した。

柴崎 隆一

リスク評価における人間の認知バイアスの計測一稀少確率・甚大被害のリスクを対象にして

事故や災害といった様々なリスクに対する人間の評価は、被害規模や生起確率といったリスクの持つ特性によって異なる。本研究は、機械的な計算より得られるリスクの評価値と、人間による主観的な評価値の差を認知バイアスとよび、機械的評価値と当該リスクに対する人間の態度表明を観測することで認知バイアスを抽出するという枠組を構築した。また、保険加入行動を取り上げ、死亡リスクや地震被災リスクに対する認知バイアスを計測した。その結果、人々は被害規模については実際の被害より過大評価する傾向があり、生起確率については、死亡リスクはほぼ実確率に等しく認知するが、地震被災リスクは過小評価し、特に被災確率がある水準以下の場合、被災可能性を全く認知しないことがわかった。

村上 迅

CBAとNTAに基づくインフラ施設の要求耐震性能決定方法

インフラ施設の耐震基準の想定地震動とされるレベル2地震動に関しては、投資額と被害規模との間にトレードオフが存在するため、要求耐震性能の決定が困難な状況にある。本研究は、施設別・構造物別に、使用条件が異なる多数のモデルケースを設定し、経済分析から要求耐震性能を決定し、その結果を積み重ね実用的な設計資料を作成するという方法を提案した。具体的には、鉄筋コンクリート製道路高架橋構造物を例題として、経済分析のためのプロトタイプツールの開発を行った。経済分析手法としては、耐震による追加投資費用・被害軽減便益及び地震発生確率を判断材料とした CBA (費用便益分析)を用いた。また、人の地震被害に対する3種類の認知特性を考慮し、地震被害に関する認識調査から計測を行った。さらに、施設単体を対象とした検討だけでなく、施設をとりまくネットワークを考慮した耐震性能ランクの検討 (NTA) をも行った。

望月 拓郎

道路建設事業における行政対応が住民意識に与える影響の分析

幹線道路事業を実施するにあたっては、地域住民の関心を高めていくことが、住民参加の観点から重要であると考えられる。本研究では、福島西道路の周辺に居住する住民を対象としたアンケート調査を通じて、事業に対する意識を進捗段階毎に計測した。その結果、事業への関心程度と住民への行政対応についての評価が、事業段階ごとに変容することを確認し、事業による影響度合いや、事業への関与程度を説明要因として抽出した。また、事業に対する意識構造について共分散構造分析を行い、@行政対応についての評価は、各住民の事業に対する賛成程度と関連が深いこと、A事業に対する関心程度の変容が居住地の特性などによって異なること、などを明らかにした。

有田 淳

事故リスク分析モデルを用いた四枝信号交差点の総合危険度評

当研究室では、交差点における車両対車両事故に着目し、追突事故や右折直進事故を対象とする事故リスク分析モデルを構築してきた。本研究では、死亡事故率の高い車両対歩行者・自転車事故に焦点をあて、交差点環境要因を入力変数とし交通量で基準化した事故率を算出する、事故発生メカニズムを考慮した事故リスク分析モデルを構築した。これにより、既存モデルと合わせると交差点における事故の6割以上が合理的に説明可能となった。これらのモデルを用いて、各事故類型の予測事故率から各交差点の危険度を評価するとともに、信号制御の改良や中央分離帯幅の縮小などの具体的な対策の事故削減効果を推定した。

上野 博義

公共料金値上げに対する意識変化に関する基礎的研究

本研究は、公共料金改定に対する利用者の意識変化について、情報を認知し、その後忘却するという人間意識の内部メカニズムを考慮した仮説を構築し、公共料金値上げ事例に適用することを目的とした。すなわち、情報を認知した時刻別に人数分布を仮定し、各グループに属する個人の意識活性度を積み上げることで、社会全体の意識活性度を定義した。そして、公共料金改定においては意識活性度が不満度に一致すると仮定し、不満を表す指標として、公共事業体等に寄せられた苦情件数を取りあげ、実際に得られたデータをもとにパラメータを推定した。その結果、人間の忘却は時間のみに依存することや、新聞の情報量と人間の不満度分布の分散には負の相関があること、などが明らかになった。

土谷 和之

首都圏鉄道ネットワークにおける旅客の時刻集中特性予測モデルの実用化と政策評価の適用

昨年度までに交通研究室では、「輸送力の増強」、「時差通勤制・ FT制の導入」などの混雑緩和施策の効果を把握するために、『首都圏鉄道ネットワークにおける旅客の時刻集中特性予測モデル』を構築した。しかし、このモデルは現状再現性の点で大きな問題があり、実用化には至っていなかった。そこで本研究は、「入力データの再整備」、「効用関数の再定式化」、「確率的利用者均衡配分の導入」などの改良を施し、モデルの再現性を大きく向上させることに成功した。また、本モデルを用いて種々のシナリオ分析を行った結果、「時差通勤制の導入」と「ピークサイドの輸送力増強」の組み合わせにより、効率的な混雑緩和が可能であることを定量的に示すことができた。

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