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2001年度(2001年4月〜2002年3月)修了・卒業ならびに学位授与 |
Yin Yafeng 道路ネットワークの信頼性評価:モデル及びその解法 |
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近年の交通網信頼性確保に対する社会的関心の高まりに伴い,交通システムにおいてもサービスの信頼性が重視されるようになってきたことを受け,本研究では道路ネットワーク上の交通流動を対象に,そのサービスの信頼性を評価するための新たな理論的モデルならびにその解法を提案した.道路サービスの信頼性を適切に評価するためには,ある道路利用者の不確実な状況下での行動が他者の行動に影響を及ぼし,更にそれが自分自身にフィードバックするという現象を表現しなければならないため,本研究では利用者の出発時刻と経路の選択行動を期待効用理論を用いて定式化し,ネットワーク均衡分析に取り込むことでこれを表現した.これにより,リンク容量の拡大やリンク所要時間のバラツキ是正といった施策が却ってネットワークの信頼性を悪化させる場合があることや,利用者の意思決定を支援する目的で導入されるATISの普及によっても,利用者満足の信頼性と道路ネットワークのリンク所要時間の信頼性の双方の改善を保証することはできないことなどがわかった. |
柴崎隆一 災害・事故リスクに対する防災・減災行動における意思決定者のリスク評価特性の計測 |
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各種の災害リスクに対する防災施設の整備水準を決定するにあたって,特に相当な不確実性を伴う稀少頻度リスクや,カタストロフィックな被害をもたらすリスクの場合,意思決定者が主観的・潜在的に評価する防災投資の便益は,通常の期待被害軽減額とは異なっている可能性がある.そこで本研究は,地震被災,洪水,斜面災害等の5種類の災害・事故リスクを対象に,これまで実際に行われてきた当該リスクに対する保険加入・防災投資などの実績から,それぞれの意思決定者のリスク評価特性を計測することを目的とした.その主な成果は以下の3点にまとめられる.@明示的な考慮であるかどうかはともかく,本研究で取り扱ったような防災・減災行動においては,意思決定者は,生起頻度と被害額の両者を考慮した枠組みで判断している.Aいずれのリスクにおいても,意思決定者が主観的に評価する被害額は,通常計算される被害額とくらべ,等倍から最大でも6倍程度に大きく,多くの場合は約2 , 3倍大きい.また,特定少数の利用者や住民に被害が集中しやすく,全被害アイテムのうち死亡や負傷による被害額の比重が相対的に大きい災害リスクほど,被害額の評価値が大きくなる傾向がある.Bいずれのリスクにおいても,意思決定者が主観的に評価する生起頻度は,通常計算される生起頻度と,少なくとも等しく,最大で約 10 倍大きい.特に,生起頻度が小さいほど,主観的に評価された生起頻度ともとの生起確率の比は大きくなる.また,実際の生起頻度がどんなに小さくても,少なくとも供用期間中に一度(あるいは一生に一度)はリスクが発現するものと評価されている.
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Ma Liqiang 階層的航空ネットワークモデルによる中国の航空市場分析 |
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1980 年以来,経済の急成長と規制緩和政策に伴い,中国の航空ネットワークは急激に拡大し,ハブ&スポーク型の輸送体系へ変容してきた. 1988 年には国内のエアラインが6地域に分割され,基幹航路において互いに競争関係におかれるようになった.また,3大都市におけるスーパーハブ空港の建設や,その他主要都市への中規模ハブの建設も計画されている.そこで本研究では,空港投資・規制緩和などの航空政策が中国の国内航空旅客市場に及ぼすインパクトの評価を行うために,「利用者均衡配分による旅客行動モデル」と「システム最適配分による航空会社行動モデル」の2つのサブモデルからなる階層的フライトネットワークモデルを用いて,中国の国内航空旅客流動を再現することを目的とした.重力モデルより推定される航空旅客のOD交通量と 1999 年の航空旅客流動データを用いた検証によってモデルの再現性を確認し,航空市場政策のシナリオ分析や,市場分割政策の評価を行った. 現在の中国における航空市場状況 |
上田 祥晶 スラム居住者およびホームレスに対する住宅供給における互恵システムの寄与に関する事例研究−アメリカ・日本の比較− |
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近時,経済活動は競争が過激になり,経済的強者と弱者の分離が進行しつつある中,わが国では,政府が経済的弱者に対する住宅関連施策から手を引きつつある.このような現状に対し,本研究では,政府・営利民間企業・非営利民間組織が「再分配」「市場交換」「互恵」によって資源配分を行うという経済人類学的社会経済モデルを考え,日本・アメリカの事例から低所得者への住宅関連サービス内容及び主体,そして彼らの行動規範に関して比較分析を行った.その結果,アメリカでは愛や思いやりを行動規範とする宗教系非営利組織が主体となって,きめ細かなサービスを提供する「互恵」システムが数多く存在する一方,日本はこの供給システムが主体数・サービス内容ともに不十分であることがわかった.今後の個人間経済格差の増大,政府の再分配機能の低下の中で,我国に充実させるべきは,愛という普遍的価値に基づく「互恵」という第三の軸であると言ってよいと思われる.
ポランニーの経済人類学的社会経済モデル |
及川 潤 密集市街地における地震被害ミクロシミュレーターの開発−第2ステップ・全体フレームの構築− |
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本研究は,昨年行われた地震被害ミクロシミュレーターのプロトタイプをより高度化することと,更にそれを用いて地区防災施策の効果を比較考察することを目的とした.具体的には,物的被害として,建築物の損壊確率の精緻化を行い,街路付属物(電柱など)の損壊とそれに伴う街路閉塞現象や火災被害の表現を新たに取り入れた.特に火災については,その延焼方向と速度が建築物の外壁の材質や隣棟間隔,風向・風力,湿度に依存するように設定した.更に,対象地区として 東京都 内のある老朽木造密集市街地の数区画を取り上げ,様々な施策ごとの被害状況分析を行ったところ,街路整備のみの施策では避難の支障は改善されるが,人的被害の本質的な軽減には繋がらないことや,建築物補強を中心とした施策では人的被害は大幅に軽減されること,その地区の場合での施策効果の特性などが分かった.
図:大地震時の被害発生状況の一例 |
加藤 渉 マーケティング方策の幹線交通機関選択行動に与える影響分析 |
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国民の望む公共交通サービスは多様化・高度化してきており,その中で都市間交通においては,航空に比べて鉄道のソフト的サービスの立ち後れが目立っている.従って本研究の目的は,主にソフト的な面からみた鉄道サービス向上のためのマーケティング方策を提案することである.まず航空と鉄道の競合が激しくなってきた都市間で旅客を対象とした行動意識調査を独自に設計・実施し,それを分析した.その結果,運賃値下げ,インターネットによる予約・購入システム,乗車券の購入場所の拡充,性別・年代別の求めるサービスの違いを認識しそれを活かした車内アメニティ改善が,幹線鉄道の旅客輸送サービス改善に必要なマーケティング方策であることがわかった. 新規予約購入サービスに関するセグメントの分布 :年代が上がるにつれて暇がある人 向けのサービスを望むようになる
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下田 誠剛 混雑空港におけるタイムスロット配分への競争入札制度導入時の航空事業者行動 |
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世界各国の混雑空港では,空港容量不足のために十分な航空輸送サービスが行われず,大きな社会的損失を生んでいる.特に,滑走路は他の空港施設と比べて建設が困難であるため,その不足は最も深刻である.これに対し,滑走路を効率的に使用するための方策として,競争入札システムが提案されている.そこで,本研究は,混雑空港の時間発着枠配分に競争入札が導入されたときの航空会社の行動をモデル化し,競争入札導入による効果を分析することを目的とする.航空会社は,交通需要,運行距離,運行時間,競合交通手段のLOS等が与えられたときに,どの時刻帯の発着枠に,どの目的地への航空サービスを提供するかを,競争入札を通じて決定する.数値例に対し,ベイジアンナッシュ均衡によってモデルの解を求めたところ,コスト構造の安い事業者が低運賃サービスを提供する,需要の少ない時間帯で高運賃となる,コスト構造の異なる事業者間では独占が起こりうる,などが明らかとなった. |
野村 崇 浸水想定地域における土地利用規制に関する研究−都市計画と水災対策の融合への序章− |
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水災対策において河道整備と流域対策からなる総合治水対策の必要性が提唱されてきたが,まだ都市行政と河川行政の十分な連携が進んでいるとは言い難く,両者の連携に向け,水災対策の観点から市街地開発要因の分析が必要であるといえる.そこで,本研究では,洪水ハザードマップを発行している全国百数十の自治体を対象に,まず都市計画図,地形図および地域史から当該都市の開発の経緯を把握し,その結果と洪水ハザードマップから,浸水想定区域の土地利用概況ならびに開発の要因を分析した.さらに,その中から開発形態が特徴的な複数の都市について詳細調査を行い,浸水想定区域における市街化促進・抑制の原因を探った.その結果,@大都市郊外のスプロール市街地では開発可能な台地面積や既存の耕地整理が開発に影響している,A地方拠点都市では強烈な開発圧力に対して圃場整備済みの農振農用地指定が開発を抑制している,ことなどがわかった. 洪水ハザードマップの例( 志木市 ) |
濱田 美恵子 都市計画道路整備における最適なツール・セットデザインの方法−沿道属性による合意形成期間の違いを考慮して− |
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市街地における都市計画道路の整備のための事業手法は複数あり,最適な選択が行われることが望ましいが,実際には合理的な選択がなされているとは言い難い.そのため都市計画決定後の整備が進まず問題となっているものも多い.本研究は,この原因を考察し,都市計画道路の最適な整備手法の選択「ツール・セットデザイン」の方法を構築することを目的とした.都市計画道路の事業手法には、直接買収方式の街路事業や沿道整備街路事業,減歩・換地方式の土地区画整理事業や沿道区画整理型街路事業といった既存の手法がある.それらを,減歩,買収,土地の入替え,土地の整形化などといった「ツール」に分解し,全ての組合せ(ツール・セット)から不可能なものを除き,これに対する2地区・ 207 権利者への選好性アンケートを行った.得られた 2593 サンプルのコンジョイント分析から地区内の各ツール・セットへの反対者を推定し,合意形成期間が費用,便益に及ぼす影響から,最大のB−Cにより最適なツール・セットを見出すことに成功した.
潜在的反対者数と合意形成期間との関係 |
野田 裕子 港湾地域の資源性の活用方法と再活性のための効果的手法 |
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世界の主要港湾の移転拡大により,都市の旧港湾地区は利用価値が下がるとともに,臨海型工業中心の産業構造転換もあいまって,従来の目的に依存しない土地利用を検討する必要が生じている.本研究は,アムステルダムとロッテルダムでの旧港湾地区の再開発現地調査を通じ,地域の資源性や活用方法に着目して,再開発の実現可能性を高めるための手法について調査した.その結果,1 ) 港湾地域が持つ親水性など既存環境は有効利用すること,2 ) スラム化など負の性質には交通インフラの充実などで克服することが成功要因となっていることがわかった.また,大規模空地開発には官民共同事業化,土地利用の混在化などが実現可能性に有効なことを見いだした. |
大川 剛思 斜面防災投資における鉄道事業者のリスク認知特性の計測 |
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各種の災害リスクに対する防災施設の整備水準を決定するにあたって,特に相当な不確実性を伴う稀少頻度リスクや,カタストロフィックな被害をもたらすリスクの場合,意思決定者が主観的・潜在的に評価する防災投資の便益は,通常の期待被害軽減額とは異なっている可能性がある.本研究は,降雨による斜面災害防止の目的で行われた防災投資の実績をもとに,鉄道事業者の斜面災害リスクに対する評価特性を計測することを目的とした.その結果,鉄道事業者は斜面災害の出現頻度を実際の出現頻度より若干小さく見積もっており,また,被害については実際の被害額を3倍以上大きく見積もっていることがわかった.この結果は,被害額については,これまで当研究室で行われてきた他の災害・事故リスクにおける評価特性の計測結果と概ね傾向が一致する.また,生起頻度については,他の災害リスクに比べると高頻度であるため,実際の生起頻度とその評価値の乖離が比較的小さい結果となったと考えられる. |
大西 悟 都市戦略が企業立地に及ぼす影響〜アジアにおける経済特区の役割〜 |
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世界の都市は,ITの発展や経済のグローバル化の流れを自都市への投資につながるよう優遇施策を講じ,世界都市としての競争力強化に成功している.本研究では,成長が著しいアジア諸国の7都市と東京を対象として,各都市における世界企業の本社・支社立地状況に注目してその都市の「競争力」を定義し,都市間競争状況を定量的に把握した.その結果,香港・シンガポール・東京は「アジアの3強」であるが,最近5年間では前者2都市が競争力を維持しているのに対し,東京のみ競争力が減少し,中国の諸都市は大きく増加したことが確認できた.さらに,各都市の経済・都市開発優遇措置などを具体的にまとめ,グローバル・エコノミー下での都市のあり方を提示した. |
小野田 恵一 交通行動における時間弁別閾値に関する実証的研究 |
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本研究では,2種類の交通行動に対象に,サービス水準の弁別閾値を求めることを目的とするものである.第1の対象は,鉄道駅へのアクセス行動における出発時刻選択行動である.ここでは,時刻選択を外生的な時刻制約条件下での通勤所要時間最小化行動問題と捉え,駅での到着時刻観測調査と外生的な時刻制約を問うアンケート調査から,駅での列車待ち時間考慮の有無の境界を時間弁別閾値として推定した.その結果,その境界値は平均運行時隔にして4分 30 秒から5分の間にあると推定された.第2の対象は,ネットワークにおける経路選択行動である.ここでは,利用者が認知可能な代替案間の効用の「最小知覚差」を考慮したMPD( Minimum Perceivable Difference )モデルを推定し,それより最小知覚差を推定した.その結果,効用の弁別閾値は乗車時間1分に対して約 1.438 倍,つまり乗車時間に換算して1分 26 秒程度であると推定された. |
小出 哲也 幹線鉄道輸送における収益管理導入効果の基礎的分析 |
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近年,交通基盤整備は成熟期に入り,社会基盤整備主体や交通事業者の行動も需要追随・新規整備型から需要発掘・既存活用型へと変わりつつある.幹線鉄道輸送においても,その持てる資産を最大限活用することを考えることが社会的にも重要となってきた.本研究では,まずそのような既存ストックの有効活用をも目指した収益管理(リベニュー・マネジメント)について調査し,その方策の一つである座席配分について,幹線旅客輸送に経験的手法で適用した.その結果今回は限られたデータの中で様々な仮定をおいた下ではあるが,長距離旅客への座席配分を制御することで区間平均乗車率を向上させることができた.
日別に見た区間平均乗車率の推移 :混雑時において乗車率が改善されている |
白井 高穂 鉄道駅の拠点性を利用した公共施設の設置可能性に関する考察 |
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鉄道駅が社会に果たし得る役割がますます大きなものとなっており,都市における駅及びその周辺の開発は極めて多様なものとなっている.しかし,駅がその利用者にとって使い勝手が良く,利用することが楽しくなるような場所であるためには,商業施設だけではなく公共施設なども視野に入れて,利用者が求めるものを把握するべきであり,ある程度のニーズが確認されたならば,積極的にその導入を検討する必要があると考えられる.本研 究ではまず“鉄道駅の特徴”と“公共施設の有する性質”との対応関係を明らかにした.続いて,アンケート調査より鉄道駅構内における公共施設のニーズを把握し,鉄道駅構内に公共施設を設置した場合に,どの程度の利用者が見込めるのかについて,いくつかの駅構内における観測調査を元に試算を行った.
駅構内にできた様々な商業施設(JR上野駅)
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高木 伸也 道路整備における環境対策に関する合意形成過程のモデル分析 |
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本研究は,道路整備における環境対策の水準についての交渉を,ゲーム理論的アプローチから合意形成プロセスを表現するモデルを構築することを目的とするものである.そして,このモデルを通して,反対活動の水準がどういった影響を与えるのか,または交渉期間や効用にどういった影響を与えるのか分析した.モデルによる数値分析より,交渉は早期に終了するか長期化するかの2つのケースに分離されること,早期に合意できないのは反対住民は交渉がこじれるにつれて自分の意見を強く主張するようになること,賛成する住民の意見がうまく反映される場を作ると,反対住民と拮抗することで合意形成期間が短縮される可能性があること等が,明らかとなった. |
中川 雅史 大規模自然災害における危機管理施策に関する研究〜時相・資源からみたFEMAの災害支援成功要因〜 |
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世界の大都市の多くは,大規模自然災害の発生が比較的穏健だった最近 50 年間に大きな発展を遂げた.今世紀は大災害が頻発する時代といわれる一方で,経済のグローバル化で都市の連携・競争が進み,災害時の危機管理が,生活再建・諸都市への被害波及抑止に大きな影響を及ぼしうる.本研究では,過去の大規模地震・ハリケーンにおけるFEMAの諸施策が都市や生活の再建に及ぼした影響を,組織形態の改革や過去の教訓の利用等の視点に着目して文献調査により明らかにした.その結果,1 ) 事前の被害軽減計画立案,2 ) FEMAによる被災地最前線への展開,3 ) さまざまな組織を統括できる権限と連携,が災害支援,都市・生活再建に有効な要因となっていたことがわかった. |
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