2002年度(2002年4月〜2003年3月)修了・卒業ならびに学位授与

 

PHAN LE BINH

通勤者の勤務制度の多様性を取り入れた大都市圏鉄道需要の時刻集中特性予測モデルの開発

本研究は,輸送力増強などの供給者側の施策や,フレックスタイム制 (FT 制 ) の普及,生産年齢人口減少などの社会環境の変化が,大都市圏通勤鉄道の混雑緩和に対する影響を定量的に把握するために,「大都市圏鉄道需要の時刻集中特性予測モデル」を開発した.本モデルは,実際のセンサスデーターに基づき,5つの効用関数を推定し,通勤者の出発時刻選択行動を表現した後,この5つの関数をリンクコスト関数とし,ロジットモデルを用い,時空間ネットワーク上に通勤交通量を配分した.ここでは,高い操作性を得るため,大都市圏の鉄道ネットワークを1本の線路に集約することを提案した.本モデルの現状再現性は概ね良好で,パラメータの時間・空間的移転性も確認できた.本モデルを用いたシナリオ分析の結果によると,大きな投資なしでは「ピーク時の平均混雑率 150% 」という長期目標を達成するのは困難であることが分かった.また,自由な時間帯の勤務が可能な制度が普及すれば,混雑緩和に対する FT 制の劇的な貢献は期待できることも分かった.

今井誠

Activity-Based Approachを用いた私的交通の時間価値計測

本研究は, Activity-Based Approach に基づく資源配分モデルにより余暇活動をモデル化し,そこから私的交通の時間節約価値を算出したものである.モデルでは,1日単位の時間・所得の配分と,1週間単位の時間・所得の配分という2段階の意思決定構造を仮定した.1日モデルは,ある場所で移動を伴う余暇活動を行うという条件の下での,1日の時間と所得の配分を表すものであり,1週間モデルは,余暇活動場所と回数の選択行動を通した1週間の時間と所得の配分を表すモデルである.1週間モデルに1日モデルから算出された1回の余暇活動で費やす時間と費用を用いる,という入れ子構造となっている.このモデルに対し,東京圏鉄道利用者の1週間のダイアリーデータを適用し,これらの人々の私的交通時間節約価値を実際に算出した.その結果,東京圏の鉄道利用通勤者の私的交通時間節約価値は,寄り道交通で 40 〜 50 円 / 分程度,外出交通で 20 〜 30 円 / 分程度であることがわかった.

大辻俊博

都市貧困層の交通行動から見た途上国開発援助の実情とその問題点

本研究は,フィリピン・メトロマニラの Squatter 郊外移転プロジェクトを事例として,都市貧困層の郊外移転に伴う生活水準低下メカニズムを解明し,郊外移転の事業内容に関する問題点を明らかにすることを目的とするものである.研究にあたっては,本学土木工学科の提供する ADB インターンシッププログラムを活用し, 2002 年 6 〜 12 月の 7 ヶ月間現地に滞在し,スラム地区・郊外移転地区での世帯訪問,事業関連機関に対するインタビュー調査を実施した.その結果,都市貧困層の郊外移転では,居住地周辺での就業機会低下が生じ,それに伴い前居住地周辺での就職行動の継続による通勤行動の高コスト・長時間化が起こること,教育設備未整備による通学コストの増加と就学機会喪失による通学行動の減少が起こること,さらに,所得獲得機会と就業時間低下による世帯所得の減少,家族の離散,就学機会の低下という移転者の生活水準低下に繋がること等がわかった.

小島昌希

社会転換をもたらす都市ビジョンの実現過程とその要因

わが国では従来から都市計画の思想において明快な都市ビジョンを打ち出してきたことは少なく,山積しつづける都市問題を考えると,都市開発において有効なビジョンとは何か,その果たすべき役割は何か,更には都市ビジョンが社会変革にどう影響を与えるかを一度考えておく必要がある.そこで本研究ではまず,都市のビジョンに関する概念を整理・分類した上で,都市ビジョンの原理を,@新たなビジョンの提示により既存社会の矛盾が顕在化される段階,A現実との乖離によるコンフリクトが発生する段階,Bプロジェクトの帰結と社会に影響を与える段階,の3段階からなると仮定し,都市開発の事例からこれを検証した.更に,問題解決を誘導するためには,@パラダイムの転換には横断的な組織により集中的な取り組みが行われる必要があること,Aビジョン内容を幅広く認識してもらうために開発主体は積極的に意見を求める対応をとる必要があること,B開発主体は都市が生み出すイメージを重視してそれをブランドとして確立するような戦略をとる必要があること,が有効だという示唆を得た.

佐藤雅史

都市間交通における割引運賃に関する研究

現在,飛行機と新幹線の間で,運賃の利用状況に大きな差がある.飛行機に関しては,大幅割引運賃を利用している人が多く,また,その大幅割引運賃に対しては,適正であると考えている人が多い.一方で,新幹線に関しては,普通運賃を利用している人が最も多く,また,その普通運賃に対しては,多くの人が高いと感じている.本研究では,これまでの全国的な都市間交通機関選択モデルでは考慮されていなかった,利用運賃の実態を反映した都市間交通機関選択モデルを構築した.このモデルを用いて割引運賃導入効果を予測したところ,全ての利用者に対して割引運賃を導入する場合,セグメント毎に価格設定を変えて割引運賃を導入する場合共に,鉄道事業者の収入,利用者の総余剰は共に増加することがわかった.新幹線と飛行機が競合する路線において,新幹線に割引運賃を導入することは,利用者と鉄道事業者双方にとって利益があるということを示すことができた.

下村新

時空間インフォマティビティの概念による歩行者指向型交差点の設計法

わが国の大規模交差点では,歩行者の安全・安心に配慮した設計手法が急務となっている.しかし,自動車側のニーズを考え合わせると,単純に歩行者のみに配慮を行ったからといって,安全・安心な空間が創出できるとは限らず,交差点の構造・制御両面での工夫が必要不可欠となる.そのために本研究では,設計環境が時間や空間に関する情報を人に正確に伝えることができる程度を表す「時空間インフォマティビティ (STI) 」という新しい設計概念を打ち出し,交通研究室で既開発の歩行シミュレータ PedECS を用いた実験により,様々な横断歩道における歩行者の横断行動特性を,客観的指標だけでなく生理的・心理的指標からも把握した. 結果として, STI 向上(情報伝達の精度が向上)により,例えば従来は歩行者に負担を与えると考えられていた青時間短縮も,歩行者から好まれる可能性があることが分かった.

胡内 健一

休日におけるアクティビティの時間配分が人々の時間価値に与える影響の分析

本研究は,時間・所得の制約下における時間と費用の配分モデルを用いて,消費者の休日の余暇活動を表現し,そこから休日の余暇活動の時間価値を算出するものである.ここでは,余暇活動を,移動を伴わない日常余暇,日帰り移動を伴う非日常余暇,宿泊を伴う宿泊余暇の3種類に分類し,これらの活動への配分時間と費用によって効用が決定されるというモデルを構築した.また,効用関数中にランダム項を導入して非線形 Tobit モデルとして定式化し,尤度関数最大化によって未知パラメータの推定を行えるものとした.必要なデータ入手のため, 東京都 居住者を対象としたアクティビティに関するアンケート調査を行い,パラメータ推定を行った.時間価値を実際に算出したところ,時間価値は,宿泊余暇,非日常余暇,日常余暇の順に高いこと等がわかった.

なお,本研究は,第 15 回道路経済研究所懸賞論文優秀作を受賞した.

小橋川 嘉樹

権利輻輳を考慮した市街地整備ツールセットデザイン手法の開発〜密集市街地の整備に焦点をあてて〜

わが国の既成市街地には,基盤整備の遅れや災害に対して脆弱な地区が多く残されている.これらの市街地では,敷地規模が小さい上に権利関係が複雑で多大な経費と時間が必要となってしまう.また,既存の事業評価は選択手法が悪くないことの証明に過ぎず,最適性を示してはいない.そこで本研究では,整備の必要度が高い密集市街地,権利輻輳地区に焦点をあて,既存の事業制度をより細かい事業手法に分解して最適な制度に再構成する「ツールセットデザイン」と言う概念を用いて,地区の属性や事業の性格に応じて最適な事業手法を構成する方法を提案した.結果としては,各権利者の属性からさまざまなツールセットに対する選好を求めることで,事業制度を選ぶのではなく,ツールセットを選ぶべきだということが分かった.また,全地区に対して同一の事業を適用することは好ましくないことも分かり,密集市街地など権利関係が輻輳している地区でもより権利者が受け入れやすい事業を設計できるようになった.

重松 健

都心の魅力向上を図る"Area Conversion"〜マンハッタンと東京の比較を通じた都市計画としてのConversion Strategy〜

近年,既存の中小オフィスビルの空室率が上昇している中,オフィスを住宅に用途転換する“コンバージョン”が注目されているが,その事業は空室の穴を埋めるためのハード造りに終始し,住む人に対するソフト面の意識が欠けているため,効果的なものは少ない.本研究では,ソフト面を意識したコンバージョンにより快適な居住環境を形成することで都市の構造転換の起爆剤にできるのではないかと考え,日本のコンバージョン施策の実態調査と,コンバージョンの進むニューヨーク・マンハッタン地区の詳細調査を行った上で比較し,東京における可能性とあり方を提案した.その結果,「地域の魅力向上」の視点がわが国とニューヨークのケースの決定的な違いであり,東京にも老舗など多くの隠れたアメニティが存在することを考えると,地域全体の魅力を引き出すという発想を持ち,その地域のブランドを高めていく「エリア戦略」を持つことが日本の今後最大の課題であろう.

南 邦毅

幹線鉄道における旅客の選択行動を考慮した座席配分最適化の研究

社会インフラ整備は 21 世紀を迎えて成熟段階に入ったといえる.従って今後は,従来のような箱モノの整備に終始するのではなく,既存ストックを有効活用していくシステムを構築していく必要がある.このような視点に立ったとき,都市間交通の一つである新幹線は,既存ストックを有効に活用できているとは言えず,列車速度向上などハード面の対策は進んでいるが,割引切符の導入や効率的な座席販売システムなどソフト面では対策が遅れている.そこで本研究では, 既存ストックの有効活用という観点から新幹線の座席配分システムの構築を行った.具体的には,@座席配分の意義を考察することで区間平均乗車率・謝絶数・収益の 3 つの指標を目的関数に最適化問題を定式化し,A移動目的別の旅客の運賃選択行動の分析を行い,Bある料金クラスの切符を購入できなかった旅客が,他の料金クラスの切符へ移ること (buy-up) を確定的に考慮した複数運賃下での座席配分最適化モデルの構築を行った.

山岸 陽介

利用者のライフスタイルと都市間交通機関選択行動の関係分析

本研究では,都市間移動者の意識について,ライフスタイル・価値観の点から分析を行い,それらが都市間交通機関選択行動に与える影響を明らかにすることを目的とする.

東京―秋田間を移動する人を対象に,ライフスタイル・価値観,さらに,交通機関に対する意識についてアンケートを行い,ライフスタイル・価値観から見たクラスタ分析を用いて東京―秋田間を移動している人を6つのクラスタに分類することができ,これらの中に,飛行機を利用する傾向のあるクラスタと,新幹線を利用する傾向のあるクラスタが存在することがわかった.また,都市間交通機関選択行動とは直接関係のない質問項目に基づいて分類した結果,利用する交通機関の選択傾向が存在することを明らかにしたことで,交通機関選択行動においても,ライフスタイル・価値観を背景に基づき行動をしていることが示せた.

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